今月のことのは

必ず 和合和睦の 思いを生ずべし
かならず わごうわぼくの おもいをしょうずべし
本山開祖瑩山紹瑾禅師『洞谷記』

 10月5日は達磨大師の御命日と伝えられます。大本山總持寺では毎年、大祖堂に於いて達磨大師の御命日を偲ぶ達磨忌の法要が営まれます。

 達磨大師は菩提達磨ともいわれ、5世紀から6世紀に活躍されました。インドのご出身で晩年、中国に渡り河南省嵩山に少林寺を建立され、初めて禅宗を開かれた方として有名です。伝説によると少林寺の洞窟で、壁に向かって9年もの坐禅三昧の修行をして、禅の奥義を極められたといわれます。また大変長生きなされ、150歳の寿命を全うされたとも伝えられています。

 達磨大師が開かれた禅宗は、後世中国仏教の大きな勢力となり、鎌倉時代に我が国に伝わりました。今日世界的に「禅」が着目され、本山にも日々外国の方が「禅」の体験に来られる状況です。

 去る9月上旬、嵩山少林寺の住職さんとその御一行の方がたが本山を訪問なされました。少林寺は最古の禅宗寺院として、また古来より拳法の本山としても世界的に有名です。また13世紀からは曹洞宗の寺院となり、華北の曹洞宗寺院を束ねているということです。

 近年では1928年に戦乱に巻き込まれ、伽藍の多くを焼失してしまいました。現在は復興も果たされ、新たな時代への歩みを進めているということです。

 嵩山少林寺に対する私の率直なイメージは、「面壁九年さながらの、世間から隔絶した厳しい禅修行」、そして「多くの武僧といわれる僧侶が、拳法修行に打ち込んでいる猛々しい姿」といったものでした。

 しかし、今回の訪問での住職さんのお話を伺うと「創建以来、少林寺の一貫した精神は、『和平和合』です」ということでした。

 禅宗というと「自己の参究」ということだけに想いが向きがちですが、禅の教えの根底には仏教の慈悲の精神があるのだということを、あらためて気づかせていただいた思いがいたします。

 表題は、瑩山禅師が『洞谷記』にお示しになられたお言葉です。瑩山禅師は仏教や寺院が守られ、はるか未来にも受け継がれていくのには、「出家在家を問わず、和合和睦の思いで心を一つにしていくべきである」ことを常々説かれておられました。このお言葉は、「たとい、難値難遇の事あるとも、必ず和合和睦の思いを生ずべし」と禅師自ら尽未来際置文としてしたためられておられます。未来の人びとへの御遺言といっていいものだと思います。

 今世界は、様々に国や組織の対立が浮き彫りになってきています。しかし対立からは、何一つ解決の道は見つからず、平和も安心(あんじん)も生み出されません。

 今回、国家同士の対立のみが取り上げられる中、曹洞宗として同じ源流を持つ寺院同志が和合和睦の思いを深めあったことは、大きな意味があったと思います。

 今こそ誰もが、古来仏教が説く「和合和睦」「和平和合」の精神に目覚める時代なのだと思います。

      

                             

令和5年10月
大本山總持寺布教教化部長 花和浩明